《India / Bharat》

ジャイナ教徒の女性
撮影場所:WB州カルカッタ、ジャイナ教寺院 Parshnath

白衣派の寺院
(宝石商バドゥリダス・ムーキン氏の寄進)

空気中の小さな生物を吸い殺さないように、鼻と口を布で覆いながら掃除を行う在家信者の女性。ジャイナ教の教義であるアヒンサー(不殺生)の教えを徹底している。

■ジャイナ教 sanskrit(jaina)※大雑把な説明です

仏教の開祖・釈迦とほぼ同時代に生きた、マガダ地方の代表的な自由思想家(6名の思想家・六師外道)のひとり Mahaaviira(本名はVardhamaana、仏教の聖典では Nigantaha Naataputta と呼ばれる。前444年頃〜前372頃、諸説多々あり)を祖師とするインドの宗教。ジャイナ教には、24人の預言者(ティルタンカラ)がいたとされるが、 Mahaaviira が最後の預言者とされる。

漢訳仏典ではジャイナ教徒は「尼乾子」と呼ばれる。

Mahaaviira は、商業都市として栄えたマガダ地方(ビハール州)バイシャーリー郊外に住むクシャトリア(王族)出身のバラモン教徒(のちのヒンドゥ教)であった。結婚して一女をもうけたあと、妻子と決別して30歳で出家。束縛を離れた者の意味をもつ自由思想のニガンタ派の修行者になった。12年の苦行ののち、欲求などの業(カルマ)に勝ち、解脱者になるための方策を悟って、勝利者を意味する Jina となる。

以後、遊行しながら30年間、Jina になるべく教えを布教したことから、ジャイナ教と呼ばれた。バラモン教以外では、最後は断食で入滅(飢餓死=自殺)したと言われる。享年72歳とされる。ジャイナ教は、同世代に派生した仏教(原始仏教)とともに王侯貴族の庇護を得て、信者を増やした。

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Mahaaviira は、バラモン教の殺生を伴う供犠、祭祀、ヴェーダ聖典の権威を無意味なものとして否定。物事は「見方によっては、多様に言い表せるものであり、断言できるものではない」と説いている(相対主義)。

ジャイナ教では、同時期に成立した仏教(原始仏教)と異なり、生物はもとより、地・水・火・大気までも含めた全てのものに「霊魂」の存在を認めている。「霊魂」に、欲情を誘因することで善悪を左右させてしまう「業」が付着することで「霊魂」は純粋なものにならず、地獄・畜生・人間・天界の四天界のどれかに輪廻してしまう。

ジャイナ教の最終目標は、輪廻からの【解脱】。戒律に基づいた苦行により、自己の「霊魂」に付着しやすい「業」を完全に「遮断/消滅」することに成功した瞬間(断食による飢餓死=自殺)、ついに【解脱】する、らしい。ただし【解脱】出来るのは、苦行を積む出家信者だけに限られる。

出家者/在家信者とも、信仰の柱を「戒律に従った実践生活」=不殺生・不妄語・不偸盗・不邪淫・不所持の五戒を送らなければならない、としている。戒律を守れば「霊魂」に付着しやすい「業」を最低限「防御」できる、としている。「業」を消滅させるには、出家信者となって苦行を積まなくてはならない。

ただしジャイナ教では「絶対に戒律を破ってはならない」というのではなく、最終的に「戒律を破った量」と、解脱するための「苦行の量」を比較して、苦行の量が勝っていれば【解脱】できるらしい。苦行の量を減らすには、日常生活を戒律に基づいた生活に近づければ良い、というなかなか便利な仕組みになっている。

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「戒律に従った実践生活」=五戒で最も重要なのは、アヒンサー(不殺生)の誓戒を厳守である。アヒンサー(不殺生)は徹底しており、微細な生物の殺生ですら禁じている。

戒律を尊厳する保守派信者は、空気中の生物を殺さないように、口と鼻を覆ったり、歩行及び座ったり横になったりする際、箒などで生物を殺生しないために払う。地中の微生物の殺生を防ぐために、農耕も行わない。

食事に関しては、徹底した菜食主義者。出来るだけ殺生を避けるために、肉類・魚類・卵はもちろんのこと、根菜・球根類などの地中の野菜類も食さない。微生物を利用してつくる酒や、蜂の殺生が伴いやすい蜂蜜は、出来る限り禁止されている(出家者は薬用酒以外は飲酒禁止)。虫が入りやすい果実も避ける。水は、水中に住む微生物を殺傷しないために、布で濾過してから飲む。夕方〜夜は、家の光につられて虫が入りやすいので、食事は日の出〜日没前に済ませる。

アヒンサー(不殺生)の徹底の他には、欲求にもとづく殺生を防ぐために、出来る限りの無所有、を謳う。倫理的な意味合いも含めて、虚偽の発言の禁止、不盗与、不淫(出家者は性行為は厳禁)を謳う。これらは心理的に傷つけることにつながり、これはジャイナ教では「心の殺生」と考える。

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ジャイナ教は1世紀頃、白衣派 zvetaambara と、空衣派 digambara に分裂する。白衣派は現在、ジャイナ教最大の派である。北インドに多く、寛容主義。出家者である僧尼の着衣と行乞での鉢の携帯を認める。一方、空衣派は南インドに多く、戒律に厳格で保守的。「一切無所有」を重視するために、出家者の裸行(全裸)を遵守する。

だが両派とも解脱を得るための実践の方法が異なるくらいで、教義自体の差異はほとんどない。ただし聖典の正当性では解釈が分かれる。また11世紀以降、インドにイスラームが伝来されたことで、偶像崇拝を否定するイスラームの教義に刺激され、ジナ尊像を崇拝しないロンカー派 onkaa も多くの信者を集めている。

出家者は、「業」を消滅させて【解脱】を勝ち取るために、長時間の瞑想を中心とした徹底した苦行・禁欲主義を実践する。在家信者から出家信者になるには、頭髪があってはならないが、その頭髪はカミソリ等で剃るのではなく、引っこ抜き、一切の欲望・財産を捨て去って遊行生活に入る。

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ジャイナ教徒は、戒律を尊守するため職業に制限がある。農民であると農耕の際、地中の微生物を殺生せざるをえない。故に、ほとんどが事務職(役人・金貸業)、商工業関係、近年ではIT技術者などの職業に従事している。

出来るだけの無所有を謳うためか、ジャイナ教徒の生活は慎ましやか。ジャイナ寺院は、信者からの多額の寄進で、えらく金がかかった荘厳・精密なものが多い。

ジャイナ教は、インド以外の地にはほとんど伝来していないが、ヒンディ教と同化しつつ11世紀頃に衰退した仏教とは異なり、インド国内では今も続く固有の宗教である。ジャイナ教徒は、インド全人口の0.4%にも満たない360万人であるが(1994年)、ジャイナ教徒の結束はきわめて固く、実直で誠実な商売で大成功をしている。



出典:

《古代インドの神ーバラモン教、原始仏教、ジャイナ教、ヒンドゥー教》オドン・ヴァレ 著、佐藤正英・監修、創元社、2000年
《思想の自由とジャイナ教》中村元 著、春秋社、1991年
《ジャイナ教の一切知者論》藤永伸 著、平楽寺書店、2001年
《ジャイナ教の瞑想法》坂本知忠 著、ノンブル、1999年

《Jainism: Jain Principles, Tradition and Practices》
http://www.cs.colostate.edu/~malaiya/jainhlinks.html
《INDOLOGY: Internet Resources for Indological Scholarship 》
http://www.ucl.ac.uk/~ucgadkw/indology.html






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