《India / Bharat》

シク教徒の結婚式
撮影場所:ニューデリー

新郎は羽毛飾りの装飾品シーラを付けて《新婦》宅へ向かう

馬は雌馬と決められ、大麦と小麦とヒヨコ豆を混ぜた餌を与える
新郎の姉妹は、手綱に赤い糸を編み込む

結婚は、2つの家が結び付くと考えるため、インドのヒンドゥ教徒やムスリムと同じように、親や親戚がアレンジ(お見合い)して決まる事が多いらしい。婚約式が初対面!という場合も少なくないらしい。男性は18歳以上にならないと結婚は出来ない。男女とも離婚・再婚が容易にできる。

シク教徒の結婚式は、《アナンド・カーラジ》Anand Karaj と呼ばれ、1909年には「シク結婚法」が制定された。婚約式は、特に必要ではないが、古くからのパンジャブ地方の伝統にのっとって行われることが多い、とのこと。

結婚式の前、新郎の母方の親戚から新婦に対して、髪飾りや腕輪などの装飾品、台所用具や衣装が贈られる。新婦の家族は、新郎と新郎の家族に衣装を贈る。ヒンドゥ教徒やムスリムのように、多額の現金を贈る習慣はないが、品物の贈り贈られは多いそうだ。


■結婚式の当日(早朝からセルモニーが始まる)

(1)新郎の家では、新郎の一族や友人などが集まり、アンダルース(礼拝の最初に唱えられる)を唱える。
(2)新郎の姉妹が、新郎のターバンの額部分に、羽毛飾りの装飾品シーラをつける。
(3)新郎の義理の姉(最年長者)が、新郎の目の回りに魔除けのアイシャドウ(コムという)を施す。
(4)新郎の一族や友人などは、楽団員とともに謳いながら、行列を作り、雌馬に乗った新郎と共に新婦の家に行く。介添えは新郎の弟か従兄弟の役目。

愉快な行列
曲目は映画音楽など多彩

(5)新婦宅に到着すると、新婦側の一族や友人などが歓迎する。全員でアンダルースを唱える。
(6)新郎の父と新婦の父、新郎の母と新婦の母、新郎の友人と新婦の友人、というように紹介しあい、抱擁する。互いに互いの額辺りに、お金(紙幣)を円を描くようにゆっくりと振り回す。新婦の家族は、新郎の家族に、衣装や装飾品を贈る(らしい)。
(7)全員で、聖典《グラント・サーヒフ》が置かれているところに移動する。

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■結婚式

結婚式は、聖典《グラント・サーヒフ》が置けて、新郎新婦が4周出来る空間が有れば、どこでも出来る。現在では、ホテルやガーデンレストランで行われることも多い。指輪などの交換物、誓いのキス、署名などはない。所要時間は1時間弱くらい。

結婚式

新郎は最前列の右端、新婦はその左横。すぐ後ろに親戚が座る。最前列左側の白いターバンの男性は演奏者。花を編んで作った庵の中に聖典《グラント・サーヒフ》が収められている。

(1)楽師が、讃歌を吟唱(キールタンという)し、ラーキと呼ばれる音楽演奏家が、パンジャブ地方の伝統楽器を演奏する。楽器はハーモニウム(手動式オルガン)やタブラ(太鼓)が主になる。親戚や友人らが一同に会する。

(2)新郎は礼拝後、聖典《グラント・サーヒフ》の前に座る。新婦は親族・友人と共に《グル・グラント》の前に進み、新婦は新郎の左横に座る。開始の礼拝アンダースが唱えられてから、新郎・新婦に祈りが捧げられ、楽師らは聖典《グラント・サーヒフ》の一節を歌いあげる。

聖典《グル・グラント》の読唱者

(3)シク教徒の知識階級のおエライさん(政治家が多い)がスピーチをする。

(4)新婦の父親が、新郎にサフラン色の大判の布の端を握らせ、肩越しにその布を渡し、布の反対側の端を新婦に握らせる。音楽家は聖典《グラント・サーヒフ》からの詩節の讃歌を唱える。

(5)聖典《グラント・サーヒフ》が開かれ、クランティーと呼ばれる読唱者によってラーヴァーンの詩節が吟唱される。この中、新郎新婦は、《グラント・サーヒフ》を礼拝し、聖典グル・グランドを時計回りに4周する。4周目に参列者は、新郎・新婦に向かって花びらを散花する。

(6)周回が終わると、全員が起立し、詩節の読誦、アルダース(礼拝の最後の祈り)を吟唱。参列者は、カラー・パルシャード(シク教の聖餐。小麦粉+砂糖+聖水+バターでつくられたもの)配られ、結婚式は完了する。


■祝宴

結婚式のあと、参列者に昼食が振る舞われる。


新郎新婦、親戚一同

赤は新婦衣装の色。
新婦は両手にヘンナで吉祥模様が描かれる

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■シク教

シク教 Sikhは、ヒンドゥ教の改革運動で派生した宗教で、イスラームの影響を多大に受けている。開祖は、ヒンドゥ教徒だったグル・ナーナク Guru Nanak(現パキスタンのタルワンディ生まれ、パンジャブ人、1469〜1539)。

教義は、唯一永遠なる神を説く「一神教」。神を「神は宗教や民族で名前が変わるが、実は同じ神である」と位置づけ、唯一絶対真理の神を崇拝し、「神の前では人間は平等である」と説く。最終目標は「輪廻転生から解脱し、神と合一する」こと。

労働を尊厳し、奉仕を奨励する。偶像崇拝、宗教的な沐浴や苦行、カースト制度(種姓制度)は否定されている。だが他の宗教の神々は否定しないため、ヒンドゥ教徒はもとより、イスラーム教徒の家庭からも、シク教徒になる者も少なくない。

■シク教、いろいろ

シク教では、専門の聖職者は存在しない。なんらかの職業に従事している。

シク教では、夜明け前の時間に祈りや黙想をして、精神を浄化する。

食事に関しては、あまり厳格ではないが、ある程度のルールがある。肉食はOKだが、イスラムの方法で屠殺した動物の肉でなければならない。豚肉は食すことが出来るが、牛肉は食べない。煙草は禁止。飲酒は推奨されないが厳禁ではない。飲酒に関しては、宗教行事がある日は「酒類の販売」を禁じている。

カールサーと呼ばれる「戦闘集団」への誓いの洗礼を受けたシク教徒の男性は、頭髪と顎髭を切らず、髪の毛を丸く束ねてターバン(4.5〜8m)を巻く。少年は、髪を真上で束ねてハンカチ状の布パッカを被せる。

カールサーの洗礼を受けていないシク教徒は、髪を短髪にしたり髭を剃ったりしているが、容姿以外ではシク教の教義を厳守している。洗礼は受けなくても良い。

シク教徒が多い英国では、ターバン姿の男性は、バイクの運転の際、ヘルメット着用を免除されている。

シク教徒の女性は、パンジャブ地方の民族衣装サルワール・カミーズ(サルワールというゆったりとしたズボン、膝丈まである長袖のワンピース、長いスカーフ)を着用する。サリーは着ない。髪の毛を尊重するため、女性も髪を切らない傾向にある。






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