《Republic of Yemen / al-Jumhuriya al-Yamaniya》

カート・パーティー
撮影場所:サナア旧市街

カート・パーティー

イスラームの休息日の前日の木曜日は特に盛ん
カートは酒に代わる最高の嗜好品である。

イエメンではカートは合法である

昼前、カートを売る市場に行き、好みのカートを購入(葉の枚数にして数百枚程度)。このカートと水(またはコーラ)、友人の誰かの家に行き、その家の最上階のカート部屋でカート・パーティーに興じる。

部屋を提供する友人は、カート・パーティーの始めに、各種香りをブレンドして松ヤニで固めた“香り石”を焚く、らしい。かつては「香水」も用意された。香り水は、密封出来る大きな容器の中に素焼きの水壺を入れ、中で“香り石”を長時間炊き込める。香りが壺に充分移ったところに、井戸水を注いで水に香りを移す。手間がかかるためか、今はほとんどやらない、らしい。

水は、カートを噛んだ時の汁を飲み込むために必要。一般的には水だが、若者はコーラを好む。また回しのみをする「水煙草」は必需品だったが、これは今では地方でしかみられない。煙草は、紙巻き煙草が主流になっている。

参加者は、カートの若い葉のみを一枚一枚毟り、指先で埃を落としながら噛んでいく。苦く青臭い。葉からにじみ出るエキス(汁)を何枚分か集めて、水やコーラなどと飲み下す。エキスが無くなった葉は、どちら側かの頬に貯めておく。

噛み始めてから1時間ほど経つと「ほろ酔い」状態になるため、会話がよく弾む。さらに1時間ほど経つと「頭が冴える」状態になる。さらに1時間ほど経つと、一気に「気分の良い倦怠感」状態に陥る。このだるい時間が2〜3時間経つと元の状態に戻り、パーティーは自然と解散になる。頬に溜め込んだカートの葉は、一気にはき出して口をすすぐ。その後、シャーイ(紅茶)を呑んで頭をしゃきっとさせる。

かつては上流階級の者の嗜好品だった。1970年代に湾岸諸国への出稼ぎが可能になると、出稼ぎ者からの仕送りで現金が入るようになる。カートを買える人口が急増した。

現在では、イエメンの国内の貨幣流通量のなんと1/3がカート絡み(生産コスト、卸、輸送、行商人など)である。

ただし南イエメンでは、現在でもカートを噛む慣習はさほど根付いていない。そのため南イエメンの男性は総じて骨格がしっかりした男やデブが多い。

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買ったカートを耐えきれず、噛み始めているオヤジ

枝毎売られているカートは高級品
カートは生鮮品なので、朝摘み・午前販売が基本

カートの質によりかなりバラツキはあるものの、年間一人あたり平均18ドル以上のカートが消費されている。なおイエメンの一人あたりの国民総生産は270ドルである(1997年イエメン政府統計)。

一回分のカートの値段は、平均500YR。枝付きの高級品となると、2000〜4000YRのものもある。(1ドル=180YRくらい)

近年、湾岸諸国などの“不況”により、出稼ぎ者からの仕送り金=貴重な現金収入は、減少している。だが庶民までに浸透したカートの慣習は、なくならない。半日以上もカートに時間を費やすため、生産活動は制限されている。カートは家計を圧迫し始めている。

また女性もカートを噛み始めた。女性は男性のように頻繁に噛むのではなく、イスラームの休息日の前日(木曜日)などに、女性同士が集まってパーティーを行う。また結婚式の一連のパーティーでもカートを噛む。

老婆はともかく、若い女性も噛み始めたことで、母乳にカートのエキスが混じっている、とも言われ、乳飲み子への影響も懸念される。

成人男性のみならず、少年もカートを噛む。カートを噛むことで、食欲が減退し、身体が育たなくなる。そのため日常的なカートの習慣を持つ旧北イエメンの男性は身体が痩せている。カートを噛む習慣がほとんどなかったハドラマウト地方の男性は、大男である。

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噛み始めて1〜2時間目

こんな感じです
(まだ目が輝いている)

頬に、大量の葉を噛み溜めていく


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